SSブログ

「(株)貧困大国アメリカ」堤 未果 [本]

少し前に読みました。小説ではありませんが、久しぶりの読書。作者が出演してテレビで紹介していた富裕層の住民たちが自分たち自身で運営しているサンディ・スプリングスというアメリカの町について興味をもったのがきっかけです。その町のことだけではなく、アメリカ社会の抱える様々な課題を取り上げたルポです。3部作とのことですが、前の2作は読んでいません。

まず最初に断っておくと、作者は、アメリカの政治経済は99%の貧困層・一般市民よりも1%に過ぎない富裕層を向いているから、現政権・体制には反対という立場です。そのため、幾分偏った内容ではあるかなという感じを受けました。いわば弱者側からのみの目線で取材されている感じを否めないし、データや反証が十分ではありません。ただ、中には日本も直面している、もしくはこれから直面するであろう近い未来を見せられているように思える指摘もあり、考えさせられます。次から次へと、アメリカ現代社会が裏側で抱えるショッキングな事例が取り上げられていて、最後まで一気に読めました。

本書で取り上げられたトピックのなかでも、農業、食における遺伝子操作、農薬の問題は国境を越え、地球規模で広がるので、怖いという感を改めてもちました。怖い理由の一番大きな点は、人体への影響を学術的にはっきりと証明することが難しいということです。自分で認識しないうちに影響があるかも知れないということは、否定はできないので。
加工食品は安価で手軽で、私も結構買います。けれど、取材過程での当事者の言葉、加工すれば加工するほど、中身はスカスカという言葉は強烈で印象に残りました。前の勤務先で扱っていた製品も説明の過程であげられており、一層複雑な思いがしました。

作者がこのルポを通して述べているのは、結局、現代社会システムのほぼ全ての局面には、国境を超えた大企業が何らかのかたちで関与して、決定権の行方を左右しているということです。それは、当たり前だと思うと同時に、ここまで来ているか、とも感じました。特に、米国立法評議会ALECの存在についてのレポートはもう少し掘り下げて知りたいなと思いました。

読み終わり、ウォール街を占拠せよ。の運動の背景にいた人々の姿が少しは透けて見えてくるように思います。ただ、現代アメリカ社会のシステムが全面的に悪いというわけではないでしょうし、もちろん大企業の経営者や政治家全てが自分達の利益のみを考えているわけではないとも思います。そのあたりについては、本書について反論されているコラムも簡単に検索できますので、興味のある方はご覧になられてはと思います。

こないだ中之島バラ園を訪れたところ、相変わらず市役所横では橋下氏の政治手法への反対の抗議が行われていましたが、もちろん差し迫った感じは受けません。日本はまだまだ余裕があるからでしょうか。

公共サービスの民営化は避けられない道だとは思いますが、どこで線引きするか、何に重きをおくか、どこまで影響が広がるか、判断は難しい。いわば街ごと民営化されたサンディ・スプリングスについてのまとめに、作者は、そこには公共という概念は存在しないと述べています。公共が資本主義の対極にあるとは思いませんが。

周りに流されるのではなく、まず自分で知ること、考えることのきっかけにするには、良い本かなと思いお勧めします。成り立ちや価値観が大きく違う欧州がオバマのアメリカをどう評価しているかについても、知りたいなと思いました。

巨大企業は多様化の反対にあるでしょうか。自分で選ぼうとしても、選択肢が限られているということは、怖いことかも知れません。
身近なスーパーでも大きなグループ企業の傘下に入ると、知らないうちにそこの商品ばかりに入れ替わっていきます。

何かが起こったときに、知性と良識のある市民が横につながって、力を大きくして声をあげるには、やはりネットが大きな役割を果たすのかなとも思いました。

身近な大阪の話としては、かつて日本一高いとも言われていた第3セクターの鉄道の売却先の決定変更には、やはり地元民の反感も影響したのではないかと思います。

証左が今ひとつで、データや反対側のサンプルが少ないので、書かれていること全てを鵜呑みにすることはできませんが、十分読み応えはあり、冷めた目線ででも、手を伸ばす価値は十分にあると思われます。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

「沈黙のひと」 小池真理子 [本]

もう2月ですね。久しぶりに母校の図書館で本を借りました。

小池真理子さんの小説を読むのは久しぶり。こないだ石原さとみが主演でスペシャルドラマにもなっていた恋愛小説のイメージが強い作家さんです。けれど、この本は、過去の恋愛が出てきても恋愛小説ではない長編でした。吉川英治賞を受賞された作品です。

主人公の40代後半から50代位の女性編集者と、子供の頃に離婚によって別れた父親との関係、父親の人生、を綴った静かな小説です。タイトルは年老いた父親の病状が段々と進んでしまった状態を示しています。

ページの多くが父親の書簡で構成されていて、そこから過去の家族の歴史が少しずつ明かされます。
人生の終わりを迎えることを知った父親の様々な感情や思いを、残された手紙や日記で後から知る主人公。
作者のお父様がモデルになっているために、おそらく描写が一層真実味をおびていて、あふれ出る感情が胸に迫る箇所がいくつもありました。
この小説ではコミュニケーションはe-mailや電話ではなく、思いをこめた書簡です。

読み終わると、多分年齢的なこともあるでしょうが、自分自身と親のこれからを色々考えてしまいました。
年老いていく親とともに、子供の方は成長しなければいけないのに、私はどうなのかなと。
うちの両親は余り昔のことは話しませんが、よその家族はどうなのかなと。

波乱万丈の人生のようでもありながら、この主人公の父親は幸せだったと思えました。2つ目の家族とある意味幸せに過ごし、1つ目の家族のことも心にかけながら、別のかつての恋人に病床から会いに行きという人生。たくさんの人に愛情を注いで、同時に愛された人だったのだろうなと。そのあたりの心の機微の描写のうまさはいつもの通りです。

父親が書簡をやり取りする女性歌人の、心のこもった思いやりあふれる、人柄のにじみでた手紙が私の心にもあたたかく残りました。そんな言葉をつづるのは、私にはまだまだ無理かも知れません。

なお、闘病治療のなかで胃ろう(胃に直接穴をあけて栄養補給することです)についても触れられていました。最近はネットのトップニュースにもあげられていて、反対意見が増えているようです。かつて仕事で直接関わっていた分野なので、どうなっていくのかなと思います。
食べること、話すこと、人と関わってコミュニケーションすること、は人間の存在そのものなのだなと、改めて深く思いました。淡々とした語り口でありながら、心に沁みる小説でした。

本作について作者ご自身が語っておられるページのリンクです。
http://gekkan.bunshun.jp/articles/-/648?page=4

他に借りた本も面白かったです。

「大阪今昔散歩」はカラー写真も多く、よく歩く大阪の街並みの歴史がわかりやすく興味深く知れます。
奥田英朗の「邪魔」も迷うことなく面白かったです。

母校に感謝。
nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:

ダン・ブラウン 「インフェルノ」☆☆☆ [本]

謹賀新年。

年をまたいで、楽しみにしていたインフェルノ、読みました。
新年から地獄もどうかなと思いましたが、面白かったですよ。タイトルは謎解きのガイドとなるダンテの神曲の地獄篇からとられています。

今回、主人公のラングドン教授を窮地に陥れるのは、狂信的な科学者です。マルサス主義、トランスヒューマニズムに傾倒し、遺伝子工学の権威。マルサス主義に基づき、黒死病ペストを引き合いに出して、人口爆発が人類の滅亡につながるから。。という一見過激な理論を唱えています。こうなると、何が起こるか、大体想像できるかと思いますが。。

舞台はまた欧州に戻り、ヴェネツィア、フィレンツェ、そして。。。
これらの美しい古都の文化遺産、有名な観光名所の不思議なからくりや、街のあちこちの描写がたっぷり盛り込まれています。欧州好きな方、旅行された方にはたまらないこと請け合いですし、行かれたことがない方でも、映画を待たずともネットで地図・映像散歩をしてみれば絶対に楽しいと思います。

それに、いつも通りプロローグに記載された、この小説に登場する芸術作品、文化、科学、歴史に関する記述は全て現実。。。との宣言。全てが正しい事実ではないという厳しい指摘もあるようですが、またまた、ちょっと人に話したくなる薀蓄が幾つも入っています。

例えば、ペストを予防するためにヴェネツィアがとった外国船の海上検疫、隔離措置が40日間であったことから、検疫を意味する英語はイタリア語の40からきている。何でかなあとは思っていましたが、そうだったのね。と納得。

古い少年少女の恋愛映画リトルロマンスで出てきた、ため息橋の命名は、実は全然ロマンチックではなく、ドカーレ宮殿から隣の監獄に送られる際に囚人が最後に美しい街を橋の上からみて、ため息をついたからというところから。などなど。

ラングドン教授の冒険譚も回数が増え、段々前ほど面白くないとのレビューもあるようですが、普遍的なテーマを選んで、エンターテイメントとして1級品に仕上げるところは、改めてすごいなと感服しました。それと、今回は悪役科学者が心酔するダンテの神曲の引用が沢山あり、今までの作品よりも文学的要素が強いですが、引用箇所以外にも、芸術的文学的な表現が増しているように思え、それが新しい一面ではないでしょうか。ストーリーにも工夫がみられ、どきどきハラハラは間違いありません。

ただし、今回の人口増加というテーマは深刻です。人口増加が人類を滅ぼすというだけであれば、多くの方がうなずくと思いますが、ペストと同じく3割の人口を減らすためには、高齢者や余命わずかな人の延命、不妊治療は必要ないとまで言い切られると、迷ってしまうのではないでしょうか。

エピローグはこれからどうなってしまうのかという思いを残していますし、理系の方が科学的見地からこの小説を読むと、幾らリサーチ・検証された上での刊行だとしても、多分厳しい指摘がますます増えそうな気はします。日本にいると少子化が叫ばれているため、人口増加について現実問題としてあまり意識されていないのではないでしょうか。けれど、地球規模で考えると、この小説の登場人物が述べるように、看過できませんので、今作でもベストセラー作家になっているダン・ブラウンが警鐘を鳴らす役割をになったのかもとも考えられます。

さて、今年は午年ですが、今回の謎解きの途中では有名なサンマルコの馬が出てきました。
フリージアン種という馬がモデルだというギリシャで作られたブロンズの4頭の馬は、その美しさ故に、数奇な運命を辿ったとのこと。ギリシャからコンスタンティノープルに持っていかれ、次は、十字軍のコンスタンティノープル陥落により、輸送のために頭を落とされてヴェネツィアへ。そしてまたナポレオンによってパリの凱旋門へ。失脚により、再びサンマルコ寺院のファサードへ帰ってきたそうです。(今はレプリカ)サンマルコに行った際に見たのか見てないのか、私の記憶は全くあてににならないのですが、検索して写真を見てみると、確かに美しい馬です。4頭の馬ですと、おそらく軍事関連の施設用に士気高揚のために元々は作られたのではと推察しますが、それにしては、美しすぎる造形です。

私の周りでも小説を読む人は減っているようで残念ですが、ダン・ブラウンの作品はいつも新しい興味をかきたててくれる楽しい贈り物です。前作「ロスト・シンボル」の感想で次は環境問題もありえるかもと書きましたがハズレではありましたが。
今回は大機構とは???のクエスションマークで私の頭はずっと一杯です。誰かご存知の方がご教示くださらないでしょうか。

写真は毎年祖母にもらう八幡様の干支の土鈴です。
お花は毎年適当に生けますが、今年は餅花も。枝ぶりがうまくおさまらずあちこち向いていますが。母によると昔は手作りして部屋のあちこちにつるして飾ったそうです。できれば水盤にきちんと華道のルールにそって活けこみもまたしてみたし。でも、水盤保管する場所がないんですよね。

皆さまにとってこの1年が佳き年になりますように。

追伸1月20日:ダン・ブラウンがFBで今プラハの町の写真をやったらアップされています。もう1度行きたい大好きな町No.1です。次の舞台になればいいのに。。
追伸3月19日:インフェルノで検索されているようで、この記事の閲覧数がものすごく増えているのに気づきちょっとびっくりしました。ダン・ブラウンの本の感想は前にも載せています。左の検索窓から検索すれば一気に出ますので、ご興味あればどうぞ。
P1040187.JPG
P1040191.JPG
nice!(6)  コメント(2) 
共通テーマ:

俵 万智「ちいさな言葉」 [本]

歌人 俵 万智さんのエッセイ集。

幼かった息子さんとの日常での小さな発見を綴った作品。さらっと読めて楽しかったです。
色んなものに興味を覚え、知りたいことが増え、それと同時に語彙が増えて世界が広がっていく成長の過程が微笑ましく、どれだけこの時期が大切なものかを思わされます。

なかでも、幼稚園の先生への正直で辛らつな評価や、母親を自分の母親とは別の社会人として認識している賢さについては、驚かされました。

いい間違いは、子供時代に誰にもあるでしょうか。私は スパペッティ、たかましや(大阪南部の人には子供時代から一番馴染みのあるデパート高島屋)、ちょこねーちゃん(オバの名前です)でした。ちょこねーちゃんは、今でもそのまま引きずっています。

ツイッターで日常をつぶやかれている俵さん。今週息子さんは10歳のお誕生日を迎えられたとのこと。とっても元気で逞しいご様子で、時折披露されるユーモア溢れる言動も楽しみです。
石垣島で暮らされているのを、どうしてなのかなと思っていましたが、この本で、仙台から震災後に移住されたことも知りました。

身近に子供さんがいる方も、いない方も、誰もが楽しめるし、ほっと優しい気持ちになれる1冊だと思います。沖縄暮らし、いいなあ。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

小説「悪い娘の悪戯」 マリオ・バルガス=リョサ [本]

林真理子さんが面白いと書いていたので、読んでみた初めての作家。南米ペルー出身のノーベル賞も取っている方だそうです。

1950年のペルー、リマの夏からこの小説は始まり、主人公の人生と共に、舞台はパリ、ロンドン、東京、マドリッドへと移ります。そして、主人公の永遠の恋人、ニーニャ・マラ(スペイン語で悪い娘)との40年に渡る壮大な恋愛歴史小説。

ニーニャ・マラは可愛い利発な少女から、ゲリラ兵、外交官夫人、大富豪の妻と、姿だけでなく、名前もパートナーも場所もころころ変え、忘れかけた頃に主人公の前に姿を現します。そして、翻弄されながらも、その魅力にあらがえない主人公。読んでいる側もはらはらして、主人公に同情したくなりますが、同時に、美しく憎めないチャーミングなニーニャ・マラの気持ちもわかるような気がします。

ペルーは正直未知の国。それに、少し前の現代ではあっても、よくは知らない当時の世界の政治情勢や文化、土地柄、いわば主人公達の人生を取り巻く背景についても確かな筆致で描かれています。それが、この小説を単なる恋愛小説ではなく面白くしている要素です。2人以外の登場人物も魅力的で小説に精彩を与えています。70歳を越える実力でしょうか。

主人公達の人生のほぼ全てを描いている終盤では、繰り返される邂逅と共に、かたちを変えてきた2人の関係に深い感慨を覚えます。

他の方のレビューに翻訳がよいとのコメントもありましたが、確かにそうなのかも知れません。比較的若いご夫婦の翻訳者の感性がバランスが良いのかも。男性側、女性側からの両方の視点ということもあるかもと思います。

たっぷりと濃い、小説らしい小説を最近読んでいないなと思っている方にお勧めです。夏の休暇にいかがでしょうか。
nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

「時のみぞ知る」 ジェフリー・アーチャー [本]

久々のアーチャーです。上下巻の文庫本。

簡単にまとめると、英国のブリストルという港町に生まれた貧しいけれど聡明な主人公の成長期。時代は第二次世界大戦前。父親の死と、主人公の出生にまつわる謎を軸にして、物語は進んでいきます。登場人物それぞれが時間を前後して、自分からの目線で語るスタイル。
英国の階級制度や、それに伴う学校制度、聖歌隊の話などが興味深く、登場人物のキャラクター設定も際立っているので、アーチャーの作品のお決まりで、ついつい時間を気にせず読み続けてしまいます。

最後は連続テレビドラマのような終わり方。英国では更に第二編、三編が出版されているそうです。この流れだと、次の舞台はアメリカでしょうか。

そして、ここからは、辛口。そのまま大河ドラマという感じの巧い小説ですが、それだからか、人物描写に納得がいかないところも、散見。ねたばれになってしまいますが。。。

その1.主人公の実の父が母子をそこまで嫌って邪険にする理由が、階級制度というだけでは説得力不十分で説明もない。
その2.最後の入れ替わりの話は唐突。
その3.古典的な禁断の恋ですが、主人公カップルがあまりに暢気な意識。無知と時代のせいなのでしょうか。
その4.母がどうして止めないのか理由がわからない。普通ならありえないのでは。

まあ、それを横においておいても、読みやすいし、面白い小説です。
アーチャーを知らない人が自分の回りに沢山いるのにびっくりしますが、本(小説)を読まないと、そんなものなのでしょうか。アーチャー初心者にはお勧めの入門小説になるような気がします。

次作の早い翻訳を期待したいなと思います。
歴史好きにもお勧めです。




nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

E.L.カニグズバーグ 「クローディアの秘密」 [本]

最近、ぼーっと見ていた番組で、モナリザは2枚あり、有名な方の年嵩に見えるモナリザは、離れて暮らしていた母がモデルではないかというのをやっていました。一般的にはジョコンダ夫人の肖像画ですが。

それで、前にも書いたのですが、アメリカの児童文学のカニグズバーグを久しぶりに思い出しました。すると、先月お亡くなりになっていました。

ジョコンダ夫人。。。以外に何を読んだか、はっきりは覚えていないのですが、クローディアの秘密は夢中になって読んだのを覚えています。賞をとっており、かなり有名な児童文学です。魔女ジェニファとわたしも面白かった覚えが。
商店街の古本屋に立ち寄ったら、たまたまクローディアがあったので、何十年ぶりかで読み返しました。

主人公はNY近郊に住む少女クローディアと選ばれし弟のジェイミー。2人が家出する話で、舞台はメトロポリタン美術館です。ありえない設定ですが、少しありそうな気もしてわくわくします。
クローディアが家出をする理由は、細かなルールもある、決まりきった日常生活に飽き飽きして嫌になったから。
これは普通の勤め人の大人の方がそういう欲求が強いかもしれません。この歳になって読んだから思えることですが。

聡明でドライなところのある姉弟の機微のあるやり取りが面白く、登場人物が少なくともあきさせません。語り手が2人の絶対的な関係性について描写したところは、そうだなと共感させられました。

クローディアも弟のジェイミーも、都会の子供だからか、シニカルな大人の一面も持っているのが、子供時代に読んだときも印象的でした。

謎解きを伴う子供向けの冒険ストーリーとしての面白さをもちながら、子供向けだけに書いたとは思えない人生の真実とも言うべき様々についても、わかりやすく心に触れる文章で書かれています。翻訳文には古めかしさもありますが、大人の年齢になってから読むと余計に心にしみるような気がします。
幸せとは何か、真のパートナーとは。
秘密を抱えるのが大人なのか。それは幸福とイコールなのか。秘密とは何なのか。

大人への階段を登り始め、アイデンティティを探す少女の物語と言えるかも知れません。
もちろん男性にも読んで欲しいですが。

挿絵も作者です。元々は理系の方だったようですが、ジョコンダといい、この本も舞台は美術館でミケランジェロがメインモチーフ。美術好きにも楽しい小説です。

私がこの本を好きなことは今も変わりません。それは、ちっとも大人な部分が増えていないからかも知れませんが。大人とは複雑なものだからそれでもよいか。一番好きなシーンも変わらず噴水。

クローディアは永遠のヒロインとして記憶に残る名前で名作です。他の本もまた読んでみたいと思います。

P2013_0525_005744.JPG
nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

「ブラックボックス」篠田節子 [本]

篠田節子さんの今回のテーマは食の安全です。

主人公は田舎町の同期の30代の3人。挫折して故郷に帰り、深夜のパートで食品工場で働く女性と、これからの農業に取り組む若い農家、学校の栄養師。

簡単に説明すると農家が作ったハイテク農法の野菜がその食品工場で加工商品化され、学校の給食に使われ、子供の病気が増えて栄養師が気づき、3人がその問題の解明に奔走するというストーリー。
その過程で郊外の田舎町の様々な顔や、工場で働く外国人労働者の問題、日本の農業の過去と未来、広く言えば世界的な食料問題について掘り下げています。

かなり綿密な取材に裏打ちされたであろうことは間違いない、読み応えたっぷりの面白さです。
ただ、今回は主人公の女性のキャラクター設定に無理があったような気がするのと、最後の顛末が少ししりすぼみな予定調和な感じがしました。

何もかもトレイサビリティを求められて、製品データを誰でもネットで手に入れられるような、ある意味厳しい日本の食。むやみに恐れても仕方ありませんし、加工品を全く食べないわけにもいかない。
できれば新鮮で安全であろう材料を自分の手で調理して口に運ぶのが一番良いのはわかっているけれど。
私自身も職場でのランチはコンビニばかりです。生野菜などは避けているので、余り買ったことはありませんが、デパートでは買うことが。

現行の法規制からもれる添加物があるというくだりはリアルであり得る話です。
けれど、食の安全の監督官庁であろう日本の農林水産省と厚生労働省を信用しないと仕方ないかなと思いますし、諸外国より厳しい面もあるとは思うのですが、いかがでしょうか。。

出てくる登場人物の皆が黒と言い切れるわけではなく、それぞれ理想を追いかけているのに、そこからもたらされる結果が良くないというところが、一番怖いかなと思いました。食の流通、安全の問題は難しい。著者は消費者側にも疑問を投げかけているのではないでしょうか。

登場人物の中で私が一番共感できなかったのは、栄養師の女性。
反対に最高に面白いキャラクターだったのは、仕事は出来て工場を仕切るのに、ひどいセクハラおやじの片岡です。
一読をお勧めします。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

「無罪」スコット・トウロー [本]

ベストセラーで映画にもなった「推定無罪」の主人公、サビッチの20年後を描いた小説。

元々法曹界に身を置いていたというこの作者の小説の法廷でのやりとりの描写は、(わからないけど)真実味があって、面白く、知的好奇心も刺激されるし、ついつい引き込まれて読んでしまいます。

ただ、登場人物それぞれが語り手になって、事件と前後して語る手法は、一層読みにくかったかも。描写はうまいんですけれど、とにかく細かくて重い。
この作者は面白いとわかってるんですが、読むのに気力・体力がいるので、最近は敬遠しがちかも。
でも、今回推定無罪の続編ということで、やはり手を伸ばしてしまいました。

サビッチ家族3人と恋人のアンナ、誰の人生にも共感は出来ないし、「推定無罪」後、家族皆が別の生き方を選んでいれば、幸せがあったのではという思いが強くします。けれど、主人公のサビッチが一番サバサバして、それでも人生は続く。という言葉が終わりにぴったりな気がしました。ただ、もうちょっとうまいやり方があったのでは?とも。

「推定無罪」の真実についてサビッチとスターン弁護士自身が語る箇所があるのですが、読んだのは随分前なので、すっかり忘れています。ハリソン・フォード主演の映画の方で見直そうかしら。と思いました。

重厚な法廷小説・推理小説がお好きな方にお勧め。前作と両方読むことをお勧めします。

余談ですが、それにしても、今回の登場人物たちの人間関係の設定は、ジェレミー・アイアンズとジュリエット・ビノシュの映画「ダメージ」を思い出してしまいました。これは法廷・ミステリー物ではありませんし、同じ名前の主人公アンナはこちらの方が悪魔的な魅力ですが。

5月6日追記 映画「推定無罪」見直しました。やっぱりそうだったかという通りの結末。記憶にはないんだけど。この本を読むと書いてないけれど、こんなにはっきり結末示してたんだ。。。と思いました。刑事役の俳優さんが味がありました。ハリソン・フォードが随分若く感じましたが、面白かったです。こちらは浮気相手の殺された女優さんがとても魅力的でした。
nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

「人を助けるすんごい仕組み」 ふんばろう東日本支援プロジェクト [本]

東日本の震災支援のためのNPO ふんばろう東日本支援プロジェクト の代表で早稲田大学大学院の講師である著者が、当時を振り返り、このNPOがどのように支援を広げていったのかについて、内情を書かれた本です。

私自身はこのNPOについては聞いたことはあったと思いますが、実際に支援に参加はしていません。
本書の中では具体的に数字をあげて、どれだけの支援を実行したか述べられており、日本最大級の支援組織とのコピーが付いていますので、多くの方が活動に賛同されて参加されたのかなと推察し、紹介したいなと思いました。

支援の広がりにはネットの力が大きかったことが説明されており、facebookについての良し悪しの評価は的確かなと思われました。そして、結局、基礎になったのは実社会での人間関係、家族関係、地縁であったことを強調されておられるのも納得ではないでしょうか。

赤十字や国の支援については、批判的で、本NPOを見習うように述べておられるのですが、それで全てがうまく行くかというと難しいのではないかなあとも思われます。本の経歴では企業勤務経験があられるかどうかがわからないのですが、ちょっと違和感を感じる部分もありました。

著者の専門である構造構成主義については、度々説明があるのですが、正直に告白すると、単純明快当たり前なことに、わざわざ難しい名前をつけて学問にしているような感じを受けてしまい、私にはいまひとつピンときませんでした。早稲田の名前を出すからには、触れなくてはならなかったのかも知れませんが。

また、本としてシンプルに読むと、時系列やエピソードが十分に整理されておらず、ちょっと焦点がぼけた感はありますが、本NPOの活動に参加された方や、何か自分にもっと出来なかったのかなと今も考えている方には、よいバイブルになるのでは。と思いました。

最後に、勤務先の大学側の協力体制がどうだったのかも知りたいなと思ったのですが、特に触れられてはいませんでした。

今も支援の形を変えつつ本NPOは活動を継続されているようです。
nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。