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「(株)貧困大国アメリカ」堤 未果 [本]

少し前に読みました。小説ではありませんが、久しぶりの読書。作者が出演してテレビで紹介していた富裕層の住民たちが自分たち自身で運営しているサンディ・スプリングスというアメリカの町について興味をもったのがきっかけです。その町のことだけではなく、アメリカ社会の抱える様々な課題を取り上げたルポです。3部作とのことですが、前の2作は読んでいません。

まず最初に断っておくと、作者は、アメリカの政治経済は99%の貧困層・一般市民よりも1%に過ぎない富裕層を向いているから、現政権・体制には反対という立場です。そのため、幾分偏った内容ではあるかなという感じを受けました。いわば弱者側からのみの目線で取材されている感じを否めないし、データや反証が十分ではありません。ただ、中には日本も直面している、もしくはこれから直面するであろう近い未来を見せられているように思える指摘もあり、考えさせられます。次から次へと、アメリカ現代社会が裏側で抱えるショッキングな事例が取り上げられていて、最後まで一気に読めました。

本書で取り上げられたトピックのなかでも、農業、食における遺伝子操作、農薬の問題は国境を越え、地球規模で広がるので、怖いという感を改めてもちました。怖い理由の一番大きな点は、人体への影響を学術的にはっきりと証明することが難しいということです。自分で認識しないうちに影響があるかも知れないということは、否定はできないので。
加工食品は安価で手軽で、私も結構買います。けれど、取材過程での当事者の言葉、加工すれば加工するほど、中身はスカスカという言葉は強烈で印象に残りました。前の勤務先で扱っていた製品も説明の過程であげられており、一層複雑な思いがしました。

作者がこのルポを通して述べているのは、結局、現代社会システムのほぼ全ての局面には、国境を超えた大企業が何らかのかたちで関与して、決定権の行方を左右しているということです。それは、当たり前だと思うと同時に、ここまで来ているか、とも感じました。特に、米国立法評議会ALECの存在についてのレポートはもう少し掘り下げて知りたいなと思いました。

読み終わり、ウォール街を占拠せよ。の運動の背景にいた人々の姿が少しは透けて見えてくるように思います。ただ、現代アメリカ社会のシステムが全面的に悪いというわけではないでしょうし、もちろん大企業の経営者や政治家全てが自分達の利益のみを考えているわけではないとも思います。そのあたりについては、本書について反論されているコラムも簡単に検索できますので、興味のある方はご覧になられてはと思います。

こないだ中之島バラ園を訪れたところ、相変わらず市役所横では橋下氏の政治手法への反対の抗議が行われていましたが、もちろん差し迫った感じは受けません。日本はまだまだ余裕があるからでしょうか。

公共サービスの民営化は避けられない道だとは思いますが、どこで線引きするか、何に重きをおくか、どこまで影響が広がるか、判断は難しい。いわば街ごと民営化されたサンディ・スプリングスについてのまとめに、作者は、そこには公共という概念は存在しないと述べています。公共が資本主義の対極にあるとは思いませんが。

周りに流されるのではなく、まず自分で知ること、考えることのきっかけにするには、良い本かなと思いお勧めします。成り立ちや価値観が大きく違う欧州がオバマのアメリカをどう評価しているかについても、知りたいなと思いました。

巨大企業は多様化の反対にあるでしょうか。自分で選ぼうとしても、選択肢が限られているということは、怖いことかも知れません。
身近なスーパーでも大きなグループ企業の傘下に入ると、知らないうちにそこの商品ばかりに入れ替わっていきます。

何かが起こったときに、知性と良識のある市民が横につながって、力を大きくして声をあげるには、やはりネットが大きな役割を果たすのかなとも思いました。

身近な大阪の話としては、かつて日本一高いとも言われていた第3セクターの鉄道の売却先の決定変更には、やはり地元民の反感も影響したのではないかと思います。

証左が今ひとつで、データや反対側のサンプルが少ないので、書かれていること全てを鵜呑みにすることはできませんが、十分読み応えはあり、冷めた目線ででも、手を伸ばす価値は十分にあると思われます。


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